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札幌地方裁判所 昭和31年(ワ)632号 判決

原告 名越大

被告 佐々木砂利株式会社

主文

被告は原告に対し、金五〇〇・〇〇〇円及びこれに対する昭和三一年一〇月六日から支払がすむまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。

この判決は原告において、金一五〇・〇〇〇円の担保を供するときは、第一項に限り仮りにこれを執行することができる。

事  実〈省略〉

理由

原告の長男満(当時七才九ヶ月)が原告主張の日時・場所で、訴外保木昭芳の運転する貨物自動車に衝突転倒し、そのため死亡したことは当事者間に争いがない。

そこで右死亡が右訴外人の過失に基くものであるか否かについて考えてみる。成立に争いのない甲第四乃至第一一号証(第九号証を除く)を綜合すると、右訴外人は、昭和三〇年五月二一日午前一一時過ぎ、前記貨物自動車を運転して江別市から石狩郡当別町に向け、時速約四〇粁の速度で江別市字篠津一五四番地先準国道(江別市から当別町に至る)を進行中、その進路の前方約二〇〇米の路上左側を、右自動車と同一方向にむかつて進行している被害者外二名の自転車乗用の少年を発見した。ところが同所附近は見透しは良好で、有効巾員約六・三米の道路であるので、たやすく被害者らの右側を追越すことができるものと考え、警音器の吹鳴及び減速をしないで進行し、被害者らの後方約二〇米に接近してハンドルを稍右に切り突然警音器を吹鳴した。ところが、当時は向い風であり、且前記のように時前に警音器を吹鳴しなかつたので、被害者らは右自動車の近接に気付いておらず、そのため右警音器の突然の吹鳴に驚き、被害者を除く二名は道路の左側に寄つて自転車から降りたが、右二名の右側を進行していた被害者は突嗟の判断を誤り、右自動車の進路前方へ斜に出て来たので、右訴外人は急いで右にハンドルを切り、急停車の措置を講じたが及ばず、右自動車の右前部を被害者の自転車の後部に衝突させて同人を跳ね飛ばした。以上の事実が認められ右認定に反する証拠は何にもない。

ところで右訴外人はその前方二〇〇米附近で被害者らを発見したものであり、しかも被害者は八才に満たない自転車に乗つた少年であるから、自動車の進路に乗り入れる危険を十分に考え、相当の距離をおいて警音器を鳴らしてその注意を喚起し、自動車の進行に気付き、警戒の措置を講じたことを確めたうえ追越すべきことは当然であると考えられる。ところが右訴外人はかかる措置もとらず、又減速することもなく進行し、被害者の後方約二〇米のところで突然警音器を鳴したため、自動車の進行に気付いていなかつた被害者をして突嗟の判断を誤らせて本件事故を発生させたのであるから、同訴外人は当然過失の責を免れない。

右訴外人は被告の被用者であり、本件事故発生当時は被告の業務である砂利運搬のため前記自動車を運転していたものであることは当事者間に争いのないところであるから、被告は本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

原告がその長男満の死亡により精神上の苦痛を受けたことは人の子の親として当然のことである。そこでその慰謝料の数額について考えてみる。当事者間に争いのない事実に、成立に争いのない甲第九号証、原告本人名越大の尋問結果を綜合すると、被害者の満は本件事故発生当時江別小学校の二年に在学し、割に成績もよく、健康な子どもであつたので、原告はその将来に相当の期待をかけていたこと、原告は中央大学法学部を卒業後、名越トメと結婚し、その間に満の外、長女・二男の三児をもうけ現在水田二町歩・畑四町歩を耕作する傍ら、牛五頭を飼育して酪農にも従事し、平均金二五・〇〇〇円位の月収をあげていること、被告側では香典として金三・五〇〇円を贈つた外何等の賠償をもしていないこと、原告としては被告に対して本件以外の損害賠償を求める意思がないことが認められる。以上の事実に前記認定の本件事故発生の経緯、特に訴外保木の過失の程度及び成立に争いのない甲第九号証及び原告本人名越大の供述により認められる原告の被害者が自転車を使用するに際しての注意監督義務の違背の程度、その他本件口頭弁論に顕れた諸般の事情を斟酌するとき、右慰謝料の数額は金五〇〇・〇〇〇円をもつて相当と認める。

よつて原告の本訴請求は、金五〇〇・〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明かな昭和三一年一〇月六日から支払がすむまで民事法定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条・第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒木大任 草野隆一 小谷欣一)

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